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IPS2010 ベンダーデモレポート

2年に一度開催される国際プラネタリウム協会(IPS)の総会が、今年は6/26から約1週間の日程でエジプトはアレクサンドリアで行われました。IPSには世界各国からプラネタリム関係者(プラネタリウム館関係者、天文学研究者、業界関連企業)などが集まり、プラネタリウムに関する最新の話題や事例紹介、新製品の発表を行います。私もデジタルプラネタリウムとドーム映像システムの開発者として参加し、今年はベンダーとしての発表も行ってきました。研究発表や事例紹介でも興味深いプレゼンが続くのですが、エンジニアとしてはやはり、ベンダーによる新製品発表とガチンコデモに興味が向きます。世界のライバル達が、この2年間にどんなものを積み上げてきたか、どんな未来を描いてみせるのか、互いを強く意識しながらしのぎを削ります。同時に、互いの熱意と努力をたたえあい、商売や立場の違いなど抜きにしてエンジニア同士語り合ったりします。私にとって、IPSは2年に一度の総括であり、真剣勝負の場であり、再会の場でもあります。

日本のプラネタリウム関係者が参加したIPSの様子は、こちらのブログに素晴らしくまとまっています。また、前回のIPS2008シカゴの時の様子は当時のブログにいくつかの記事として書きました(1,2,3,4,5,6,7,8,9)。今年はどうも記事をいくつも書いている余裕が無さそうなので、ベンダーデモと各社の新製品を中心に私見を書いてみます。あくまでいちベンダーである私の目から見たレポートですので、偏りがあったらご容赦ください。

今年のIPSはいつにもまして一般研究発表の枠が少なく、午後は連日ベンダー各社のデモが続くというプログラムになっていました。本当は一般研究発表ももっと活発になって欲しい所ですが、エジプトという場所の遠さと、参加者数(300人くらい)に対してドームが小さいために全員出席させるベンダーデモの時間が必然的に延びてしまったのも理由かも知れません。また、会期中は研究発表の部屋以外にベンダー各社がデモブースを広げており、エアドームや壁一面のスクリーン、多数のディスプレイなどを駆使して新製品やプラネタリウム番組をアピールしています。


  

デジタルプラネタリウムのシステムエンジニアとしては、やはり大手ベンダーの新製品発表に目がいきます。日本でもよく知られるデジタルプラネタリウムの代表格としては、Evans and Sutherland (E&S)社のDigistar4(日本では五藤光学研究所が代販)、SkySkan社のDigitalSky2Release2(日本では主にコニカミノルタプラネタリウムが代販)、SCISS社のUNIVIEW(日本では弊社が代販)がありますが、今回飛躍的なソフトウェアの進歩で一躍注目を集めていたのがRSA Cosmos社のSkyExplorerV3です。

RSA Cosmos社はヨーロッパや韓国などで多く実績のあるフランスのメーカーですが、残念ながらまだ日本には納入実績が無く、なかなか現物を見る機会がありません。前回のIPSの記事で書いたように、同社のエンジニアとはProjection Designerを一緒に開発したり、天文データスタンダードについて議論したりしてきました。彼らがこの数年をかけておよそゼロから作り直した最新のデジタルプラネタリウムソフトウェアがSkyExplorerV3です。特に地球の地表面描画と大気シミュレーションには専門の研究者とともに猛烈にこだわって開発をしており、そのリアルさは正直UNIVIEWを超える勢いです。この惑星描画のクオリティに対して、まだ使い勝手やユーザーインターフェースの部分はこれからという印象を受けましたが、これから全方位の進化をして素晴らしいデジタルプラネタリウムソフトウェアになることでしょう。ベンダー発表初日のRSA Cosmosの発表では、五藤光学研究所との連携がアナウンスされました。日本市場ではわかりませんが、ヨーロッパ市場では五藤光学研究所の光学式投影機とRSA Cosmosのデジタルプラネタリウムという組み合わせが展開されるとのことです。こういった業界の組み替えやダイナミックな動きが垣間見られるのもIPSの面白い所です。

RSA Cosmosのベンダー発表の中では、彼らのOpen Cosmosというプロジェクトについても紹介されました。これは前回から続く天文データスタンダードについての、彼らからの回答と言うことになります。天文データスタンダードとは、研究者やベンダー、有志によって共通の天文データベースを構築し、システムの壁を越えてそれを利用できるようにしよう、という取り組みです。現在はAMNHがライセンスするDigital Universeが業界標準的なデータセット・フォーマット・ガイドブックのセットになっていますが、これをよりオープンに構築しようというのが狙いです(現行のDigital Universeはライセンス料や成果物の再配布に難があるので...)。Open Cosmosでは、オープンソースのデータビューア・コンバータソフトウェアの上にデータを溜めていき、そこから各ベンダーのデジタルプラネタリウムソフトウェア用のフォーマットに書き出す仕組みを作る、というソフトウェアエンジニア流のアプローチになっています。プラネタリウム館が直接利用するというよりはデータを持つ研究者や私のようなデジタルプラネタリウム開発者が反応すべき内容のプロジェクトですが、ベンダー側からこうしたスタンダード化への具体案が出てきたことは非常に興味深く、私としても何らかの協力をしていければと考えています。

ベンダー発表初日に発表したもう一社はSPITZです。独自手法によりアルミパンチングのドームスクリーンの継ぎ目をほぼ完全に見えなくしたNano Seam Screenの紹介がありました。スクリーンの板を重ねずに接合し、リベットにも吸音穴と同様の細工を施すという念の入りようで、確かに遠目から見た限り完璧とも言える精度のシームレスなスクリーンが実現されています。世界30カ所以上に導入されているとのことですが、日本でもどこかで見ることができるのでしょうか(追記:国内で唯一、五藤光学研究所内の開発ドームがNano Seamだそうです。見てみたい!)?続くSPITZのデモは、Starry Night(海外でデファクトスタンダード的なプラネタリウムソフトウェア。日本のStella Navigator的な位置づけ)をドーム対応させたSCIdomeシステムです。もとがコンシューマ向けのプラネタリウムソフトウェアなので、学習投影向けの蓄積が豊富そうな印象でした。SPITZはE&Sの子会社になっていますので、中・大型プラネタリウムではDigistar4、学校の屋上にあるような小型プラネタリウムではSCIdomeという棲み分けなのだろうと思います。最後にもうひとつ、Layered Earthという新しいソフトウェアについても紹介がありました。これはGoogle EarthやWorld Windのような地球科学データのマッピングソフトウェアで、地球上の気候変化や地質データなど、様々な科学データを重ねてマッピングできるようになっています。UNIVIEWにも同様な機能がありますが、こうした地球を中心に地球科学、環境問題をテーマとした解説を行うプラネタリウムの新しい使い方が、海外では着実に広がってきているようです。

ベンダー発表初日のドームデモでは、コニカミノルタプラネタリウム、Digitalis Education Solutions、E&Sと発表が続きました。コニカミノルタプラネタリウムの発表は、製品ラインナップと近年の導入実績の紹介がありました。これには現在建築中の東京スカイツリーのドームシアター、そして世界最大のドームとなる名古屋市科学館の事例も含まれています。名古屋市科学館のドームについてはベンダーブースでスクリーンメーカーであるAstro Tech社でも大きく取り上げられていましたが、やはり業界からの注目度は高いです。最後にCosmosというタイトルの、印象的なドームイメージ映像の投影がありました。Digitalis Education Solutionsは、独自設計の魚眼レンズを使った小型ドーム用のデジタルプラネタリウムシステムを紹介しました。これはオープンソースソフトウェアのStellariumと、これを同社がプラネタリウム用に改造したNightshadeというソフトウェアが中心になっています。専用のリモコンや、WebインターフェースからiPadを使って操作するデモでした。さすがに一投式で解像度はやや荒いながら、比較的安価なデジタルプラネタリウムとして面白い選択肢だと感じました。ちなみに日本ではメディア・アイ・コーポレーションが代販しています。

ベンダー発表初日最後のドームデモはE&SのDigistar4です。前回のIPSで既にアナウンスはありましたが、日本でも見る機会が無かったので今回ようやく実物を見ることができました。Digistar4はこれまで広く普及していたDigistar3をおよそゼロから再構築した新型のデジタルプラネタリウムソフトウェアで、おそらくその最大の特長は刷新されたGUIにあります。見た目にもクールなGUIパーツを自由に配置してカスタマイズしたり、内蔵するデータライブラリの画像や動画をドームマスター状の画面にドラッグ&ドロップで表示することができます。こうした様子をドームにGUIも別で投影しつつデモが行われました。また、こちらもiPadから同様の操作が行えることを強調していました。コンソールから離れても操作できるのはライブ投影の自由度が増すので、これからの標準になっていくのかもしれません。GUIだけでなく、雲やオーロラなどの特殊効果の表示、地球や火星の海面高度を変化させて見せる(?)等のデモも行われました。ただ残念ながらプラネタリウム機能や宇宙映像のデモは少なめで、RSA Cosmosや他社の映像クオリティと比べてどの程度なのかはわかりませんでした。描画エンジンもDigistar4になって一新されているはずで、その辺りもじっくり見られるかと期待してたのですが。このカスタマイズ性の高いGUIが、日本のプラネタリウム現場にどのように定着していくのか、注目していきたいと思っています。

翌日昼の研究発表の時間にも、いくつか面白い発表がありました。Navegar FoundationのFulldome Pluginは、SkySkan社のDomeFXと並ぶAfterEffects用のドーム映像編集ソフトウェアです。発表の中ではこの基本的な使い方と、最新機能の紹介がありました。日本ではどのくらいの知名度かわかりませんが、興味深いソフトウェアをいくつも作っている会社なので、同社のウェブサイトなど是非ご覧になってみてください。最新版のFulldome Pluginではグラフィックカードの機能を使って動作速度が向上したとのことですが、具体的にどのくらい違ってくるのかは実際に試してみるしか無さそうです。

allsky.deは、世界中を回って高品質な全天周写真やムービーを撮影している会社です。研究発表の中では最新の取り組みとして、REDの高解像度カメラを手持ちの潜水ハウジングに納めて、海中や深海探査船の撮影を行う様子が発表されました。これはallsky.deの担当者が、同時に海洋研究のドクター学生であることにも関連しているとのことです。残念ながら今回は番組として制作中の海中ドーム映像は上映されませんでしたが、次のIPSでの公開を期待したいところです。

この日のベンダー発表は平面スクリーンでDiscovery Domeと弊社の2社が発表、同時にドームではSky Skan社とRSA Cosmos社の発表でした。IPS参加者は3つのグループに分けられてこれらの発表を順番に見ることができるのですが、逆に私のように発表する側は、同じ話を3回するうえに裏番組の発表を完全に聞き逃すことになります。ここ数回のIPSで立体ドームや8K投影など先進的な取り組みを繰り出してくるSkySkanと、今回の台風の目であるRSA Cosmosのドームデモが全く見られないのは本当に残念でした。実際、これらのデモは全く見られなかったので、詳しく言及することは控えます。ただSkySkanについては、今回はドーム番組のムービー紹介が中心で、それほどアグレッシブなものでは無かったと聞いています。アレクサンドリアのドームはE&Sのシステムで、他社から見ると完全にアウェーなので、今回は実物投影デモを見送ったということなのでしょう。安定と充実を見せるDigitalSky2R2は近年、オーロラや宇宙線、大気流のシミュレーションなどの科学可視化の要素をデータセットとして追加してきています。ただ、一方でDigistar4やSkyExplorerV3のような新造システムからの猛追を受けている立場でもあります。それもあってのことでしょう、今回のIPSでは、次世代のSkySkanのデジタルシステムとしてDigitalSky7(仮称?)の開発決定が発表されました。おそらくその全貌を現すのは2年後、次回のIPSの頃となるでしょうが、また業界激震の予感にワクワクします。

平面スクリーンのベンダー発表一番手は、Discovery Dome社の発表です。これはエアドーム式の可搬型ドームにミラー式の一等投影システムを組み合わせたもので、安価で設置も簡単なのが特長です。特にプラネタリウム機能は持たず、ミラー投影用にスライスされた番組ライブラリが提供されるようです。また意欲的な取り組みとして、ゲーム用ミドルウェアのUnity3Dを利用したインタラクティブなウォークスルーデモも行われました。これは今のところ単眼用ですが、まさにこれを複数プロジェクターで立体ドームに投影したのが私のブログのこちらの記事です。完成度の高いミドルウェアを利用したインタラクティブなドームコンテンツの開発という着眼点には通じるものが多く、発表の間にもいろいろと意見交換することができました。

私の発表は30分枠で、前回のIPSから今回までの2年間にわたる事例紹介とソフトウェアのデモを行いました。2年間というと、シンラドームの開発から含まれてくるので、シンラドームとそのコンテンツの開発、ドーム映像に関する様々な取り組み、フォルクスワーゲンイベント札幌の屋外ドームコンサート山梨県立科学館のプレアデスシステムと、事例紹介だけで写真やムービーのてんこ盛りです。それに加えて、フリーで公開しているAllSkyViewer、導入が広まっているQuadraturaの最新機能紹介、そして開発を始めたばかりのConsole(仮称)の紹介を行いました。Quadraturaは2年前のIPSで既に紹介しており、ベンダー各社とも近い機能を載せてきています。しかし天文要素から切り離してドームプレゼンテーションに特化した設計と、それによる直感的な操作性と多機能制は未だに目新しいようで、今回も各所から高い評価をいただきました。Quadraturaがドームプレゼンテーションの一般化なら、Consoleは操作インターフェースの一般化とも言うべき物で、フルカスタマイズ可能なGUIとJavaScriptエンジンを特長としたプラネタリウムシステムの基盤ソフトウェアとなります(これについては後日改めてご紹介)。派手さには欠けるソフトウェアですが、その意味を理解できる同業者からの引きは強く、今後某社との興味深い連携にもつながっていきそうで、収穫は大でした。

ベンダー発表3日目のドームデモはSCISS、Global Immersion大平技研です。平面スクリーンでは番組プロダクションの作品公開が続きましたが、こちらは割愛。SCISSはご存じ、弊社とともにUNIVIEWの開発を行っているスウェーデンの会社です。ドームに入ってすぐに投影されていたのは、コネチカット州の科学館で稼動しているUNIVIEW展示版(UNIVIEW Viewer)の紹介でした。来館者がメニューからシーンを選び、ジョイスティックで自由にUNIVIEWを操作できる仕組みになっています。灼熱する太陽やブラックホール中心、火星の詳細な表面フライスルーなど、独自のビジュアルも追加された特別版になっています。続いてドーム前面に投影されたのが、今回のIPSでアナウンスされたUNIVIEW 1.4の映像です。これはGlobal Immersionがドームに持ち込んで仮設したドーム投影システムによるリアルタイムデモでした。UNIVIEW 1.4では、最適化された惑星表面データ、全天周ムービー再生、3次元音響などいくつもの機能がありますが、ここでは先日噴火したアイスランドの火山の様子を詳細表示して見せていました。私も帰国できない現地で似たような事をやっていましたが、UNIVIEW 1.4ではこうした時事ネタもずっと詳細に表現できるようになっています。その他、追加されたデータセットや全天周ムービーによる協力各社のムービー作品上映が続きます。

ちなみにドームではデモが難しいので多くは語られませんでしたが、UNIVIEW 1.4の最大のポイントはUNIVIEW Producerというリアルタイムの宇宙映像編集システムの同時リリースになります。UNIVIEWの利用館は世界に70サイト以上ありますが、調べてみるとその半数以上が、UNIVIEWをドーム映像の制作ツール(プロダクションツール)としてもバリバリ活用していることがわかりました。そのため、こうしたドーム映像制作を動画編集などでおなじみのタイムラインを使って画期的に容易にするツールの開発に注力したのです。これまでUNIVIEWの映像クオリティは他社に対して頭ひとつ抜けていたので、そのアドバンテージを使って新しい方向に一歩進めてみたという状況です。もちろんその間にも、他社の機能拡充や映像クオリティの向上は目覚しいため、この辺りの競争も今後激化していくことでしょう。こうしたベンダーごとの戦略の違いが見えてくるのも、IPSの面白い所です。

続くGlobal Immersionは、日本国内ではなじみが薄いですね。ドーム投影や特殊な映像システムの構築を得意とする、大手のシステムインテグレーターです。海外ではUNIVIEWの大手リセラーはこのGlobal ImmersionとZeissで、プラネタリウムシステムを導入するときの元受企業となっています。Global Immersionは技術者も多く抱えており、その独自ソリューションのひとつとして紹介されたのが今回の仮設ドーム投影システム(製品名:FidelityGo)です。HDプロジェクター4台による構成でしたが、アウェーで限られた時間内でのセットアップにもかかわらず見事な投影が実現されています。海外ではこうした「投影なら何でもまかせろ」的な会社がいくつもあるのでうらやましいです(そうでないとこういうの自力でやらないといけないので)。Global Immersionからは統合型プラネタリウムのソリューションとして大平技研のメガスターとの連携も発表されました。SkySkanにGlobal Immersionにと、メガスターも海外で引っ張りだこですね。Global Immersionが最後にデモしたのは、コントラスト比80万:1という脅威の黒味を持ったプロジェクターZorro(製品名:FidelityBlack)です。完全暗転したドームで点灯しても黒浮きがまったく見えません。解像度はQXGA、明るさは800-1000ANSIのLCosプロジェクタで、確かに明るさには欠けるのですが、このコントラストは光学投影機の微光星にとってきわめて重要です(ちなみにアレクサンドリアのドームはSonyのSXRDx2)。こうした超高コントラストプロジェクターはこのZorroと、Zeissが前回のIPSで発表したVelvetが代表格です。今回Zeissはアウェーでやる気が無かったのか、チラシ配布のブース展示以外一切のデモが無かったので、残念ながらZorroとVelvetを比較することはできませんでした。それにしても、こうした特機プロジェクターは未だ日本に導入されてこないので、IPSはこうしたハイエンドシステムに触れられる貴重な機会でもあります。

ドームデモの最後は大平技研です。大平貴之氏の英語スピーチによるイントロに続いて、多国語堪能なアレキサンダー氏によるメガスターの略歴と事例紹介。最近は海外案件も増えてきて、ますます忙しそうです。大平技研は今回のIPSで唯一、光学投影機をそのまま持ち込んできています。ドーム中央に鎮座する緑色のメガスターIIBの星空を、さぁご覧ください!と煽った所で、なぜか投影されたのは天井付近の一部のみ。これはシークレットで持ち込まれたHome Star Extraの投影によるサプライズでした。Home Starは海外でも代販されており今回もブース出展されていましたが、なぜかイタリアでの売れ行きが目覚しいそうです。わずか600ドルでこの星空、と3台並べたHome Starの投影バリエーションを紹介し、好評を博していました。その後は改めてメガスターIIBの投影。15mほどのドーム全体に繊細な星が広がり、細かく瞬いている様子までじっくり見ることができました。派手なデジタルプラネタリウムの映像が続くベンダーデモですが、やはり光学式の投影は素晴らしいなぁと、日本人ならずとも参加者皆が感じていたはずです。これに加えて、回によってはZorroによる星座絵の重ね打ちなども行われたようです。私もそうでしたが、3回もプレゼンを繰り返すうちに(大変だけど)余裕が出てきて発表もこなれてきますね。デモが終わりドームが明るくなってからは、メガスターや大平氏の写真を撮りまくる参加者が多かったのが印象的でした。

IPS最終日は午前中に最後のベンダーデモ、午後には閉会式で、夜には皆でバスに乗って出かけていってディナーパーティーというスケジュールです。最終日のベンダーデモの注目株は五藤光学研究所です。他にも平面スクリーンやドームで海外のプロダクションのムービー上映がありましたが、割愛します。五藤光学研究所のドームデモでは、まずこれまでの同社の長い歴史と名機を振り返った後、この大会で初の発表となるケイロン2が紹介されました。恒星数は1.6億個にも及び、LED光源、最大30mまでの大型ドームに対応しています。さすがに実機デモはありませんでしたが、投影ユニット1筒分を持ち込み、これまでの恒星投影とケイロン2の恒星投影を比較して紹介していました。確かにこれは圧倒的な密度感。これが全天に美しく広がった様子を、早くどこかで見てみたいものです。日本のJPA仙台で発表されたパンドラは今回のIPSではほとんど触れられず、ケイロン2の発表とRSA Cosmosとの協業発表(E&Sとも協業は継続のもよう)が発表のメインでした。五藤光学研究所の発表の最後には、1分だけ「HAYABUSA Back To The Earth」の全天周クリップも上映されました。ほんの一瞬、ナレーションも無い上映でしたが、それまでに上映されていた様々な海外ドーム番組とはハッキリと質の違う印象が残ったのではないかと思います。今後五藤光学研究所から世界配給とのことです。ひとつでも多くの国の人々に、はやぶさとこの映画の事を知ってもらいたいですね。

今回のIPSでは日本からの2社だけが光学投影機の発表を行いました。デジタルプラネタリウムの派手な進歩に目が奪われがちですが、ここに集まった参加者たちは皆、これまでずっと光学投影機に支えられ、今後もデジタルと組み合わせた光学投影機の新たな可能性を追求していくのです。こうした大切な技術を守り続け、時代とともにさらに進化させ続けていく姿を日本から強くアピールできたことは、とても誇らしく感じました。海外の参加者たちも、盤石の実績と技術に支えられた五藤光学研究所と、若き天才率いる大平技研の鮮烈な挑戦は、好対照でどちらも素晴らしいと話していました。

以上で今回のIPSベンダーデモの私見レポートは終わりです。今回はエジプトという場所柄と、ドーム径が小さく状況が見えないということもあってか、前回のシカゴ大会に比べると、SkySkanなど全力を出し切れていない印象のベンダーもありました。もちろん、RSA Cosmosのような一気に頭角を現してきたもありました。個人的には、大手ベンダーのひとつであるZeiss(光学投影機とプロジェクター、デジタルプラネタリウムPowerDomeシステム)からのデモが無かったこと、もうひとつ密かに期待していたMicrosoftのWorld Wide Telescopeのドーム版(進行中です。投影補正技術はProjection Designerベース)の発表も無かったのが残念でした。

こうした派手なガチンコデモの裏では、エンジニア同士互いの健闘を称えあい、研究者やプラネタリウム館の人達とごっちゃになって、次の世代のプラネタリウムについて昼夜を問わず延々と語り合いました。まだまだ凄いアイデアをいっぱい持っている、形にできてないものばかりだ。もっともっと、表現したいことはたくさんある。次はこんなことをしたいんだ。話は尽きることがありません。

2年後のIPS、今度はルイジアナのバトンルージュです。それまでにどんな未来を描き、創り出していくのか。再会を約束して別れ、また新しい2年間が始まります。

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開発中のつぶやきや裏話など、筆に任せて綴っています。